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大阪大学大学院基礎工学研究科 附属スピントロニクス学術連携研究教育センター

  

研究テーマTHEME


次世代低消費電力エレクトロニクス研究

Society 5.0(サイバー空間とフィジカル空間が融合した社会)を実現するための社会ニーズが、クラウドサービス向けのデータセンターの建設(増加)を加速していますが、それに伴う消費電力の増大が社会問題となっています。大規模データセンターの電力消費量は2050年には、現在の約2500倍にも増大することが予想されており、これは、2050年カーボンニュートラルを掲げる我が国にとって喫緊の課題です。2018年のデータセンターの消費電力量の大半は半導体デバイスのプロセッサとメモリが占めているという試算があることから、2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けて、半導体システムの低消費電力化技術の開発が未来社会において極めて重要であると言えます。浜屋研究室では、シリコン(Si)基板上の低消費電力動作の演算部から成り,光配線技術(発熱・通信遅延を減らした省エネ情報通信技術)と相性が良く,不揮発メモリを搭載した(待機電力削減=省エネ)オンチップ集積(小型化=省エネ)型の革新的な半導体技術の開拓を目指した研究を推進しています。

研究テーマに関するレビュー論文はこちら
K. Hamaya et al., J. Phys. D: Appl. Phys. 51, 393001 (2018) (Topical Review).
K. Hamaya and M. Yamada, MRS Bulletin 47, 584-592 (2022).


シリコンゲルマニウムスピントロニクス

スピン電界効果トランジスタ(スピンMOSFET)[Appl. Phys. Lett. 84, 2307 (2004)]は、トランジスタの演算機能に加え、ソース・ドレイン電極に強磁性体(磁石)を用いることで発現する磁気抵抗効果による不揮発メモリ機能を併せ持つため、夢の低消費電力半導体デバイスとして期待されています。浜屋研究室では、次世代の高速電子デバイスや光デバイスへの応用が期待されている半導体材料ゲルマニウム(Ge)およびシリコンゲルマニウム(SiGe)をチャネルとしたスピンMOSFETの実証を目指して研究を推進しています。半導体スピントロニクス分野では世界的に極めて異例の絶縁トンネル障壁層を用いない低抵抗・室温スピン注入技術を独自に開発することで、世界最高水準のスピン注入を室温で実現しています。現在は、強磁性ソース・ドレイン電極材料の高性能化だけでなく、半導体チャネル材料の高性能化(スピン拡散長の増大やスピン緩和機構の抑制など)の観点から、スピンMOSFETの性能指標である「磁気抵抗(MR)比」を回路上で読み出し可能なレベルにまで向上させることに取り組んでいます。また、ゲート電圧印加による電流変調と不揮発メモリ効果を同時に実現できるトップゲート型スピンMOSFETの作製にも取り組んでいます。

最近の代表的な論文はこちら
M. Yamada et al., NPG Asia Mater. 12, 47 (2020) (Featured Article).
K. Kudo et al., Appl. Phys. Lett. 118, 162404 (2021).
T. Naito et al., Phys. Rev. Applied 18, 024005 (2022).


高集積縦型スピンデバイス

半導体デバイスの微細化が進むにつれて、従来の横型デバイス構造の改良だけでは、デバイス性能を向上させることが困難になりつつあります。そこで、浜屋研究室では、縦型デバイス構造への革新を独自に推進しています。これまで、分子線エピタキシー(MBE)を用いた独自の低温薄膜合成技術の開発により、デバイス応用上必須であるSi基板上に、全単結晶「強磁性体/半導体ゲルマニウム/強磁性体」縦型構造を世界に先駆けて実証しました。最近では、高性能強磁性ホイスラー合金を下部電極に用いた縦型構造の作製に成功し、半導体スピンデバイスにおいて世界最高値の室温MR比を達成しています。縦型半導体Geスピンデバイス以外にも、 ホイスラー型半導体を中間層とした全ホイスラー構造の縦型スピンデバイス、垂直磁化材料を強磁性電極に用いた縦型半導体スピンデバイス、強磁性ホイスラー合金/半導体ナノワイヤ構造を用いた縦型スピンFETなど、独自の高集積型縦型スピンデバイスの研究を推進しています。

最近の代表的な論文はこちら
A. Yamada et al., J. Appl. Phys. 129, 013901 (2021).
A. Yamada et al., Appl. Phys. Lett. 119, 192404 (2021).
S. Yamada et al., J. Magn. Magn. Mater. 561, 169644 (2022).


高性能界面マルチフェロイク材料と電圧制御型スピンデバイス

近年、スピントロニクス技術を利用した不揮発メモリデバイスの開発が勢力的に進められています。その代表例である磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は、高速動作、繰り返し書き込み耐性、大容量性を備えた不揮発性メモリとして期待が寄せられており、2023年現在、最新のスマートウォッチなどに搭載されるようになってきています。しかし、スピントロニクスデバイスにおける情報書き込み(強磁性電極の磁化方向の制御)時に電流を用いたスピン注入磁化反転技術が主に用いられており、デバイスの微細化や高速動作化に伴って情報書き込み時の消費電力が大きくなるという課題が残っています。浜屋研究室では、従来の電流を用いた磁化制御技術ではなく、より低消費電力化が期待できる電圧での磁化制御技術の実現に向けて、高性能スピントロニクス材料と強誘電体からなる高性能界面マルチフェロイク材料の開発や、それを組み込んだ電圧制御型スピンデバイスの開発を推進しています。

最近の代表的な論文はこちら
S. Yamada et al., Phys. Rev. Mater. 5, 014412 (2021).
T. Usami et al., Appl. Phys. Lett. 118, 142402 (2021).
S. Fujii et al., NPG Asia Mater. 14, 43 (2022). (Nature Research).


超伝導コンピューティング用低消費電力不揮発メモリ

データセンターの消費電力増大の解決に向けてジョセフソン接合を利用した超伝導コンピューティングが注目されています。超伝導ループ内の磁束量子の有無を「1」と「0」に対応付けて演算を行う単一磁束量子(Single flux Quantum : SFQ)回路は、従来のCMOS回路に比べて1桁程度高速かつ3桁程度低消費電力の動作が可能とされており、次世代の集積回路技術として期待されています。 現在、SFQ回路に適用可能なメモリとして、磁性ジョセフソン接合と呼ばれる積層構造を利用した不揮発メモリの開発が進められています。しかし、電流誘起磁場による書き込み方式の使用が検討されており、集積化・省電力動作の観点から問題を抱えています。そこで、浜屋研究室がこれまで蓄積してきた界面マルチフェロイク構造による磁性制御技術をSFQ回路用メモリに適用できないかと考え、研究に取り組んでいます。現在までに、圧電体上への超伝導薄膜の作製に成功しており、今後、磁性ジョセフソン素子への適用を目指しています。