スピン電界効果トランジスタ(スピンMOSFET)[Appl. Phys. Lett. 84, 2307 (2004)]は、トランジスタの演算機能に加え、ソース・ドレイン電極に強磁性体(磁石)を用いることで発現する磁気抵抗効果による不揮発メモリ機能を併せ持つため、夢の低消費電力半導体デバイスとして期待されています。浜屋研究室では、次世代の高速電子デバイスや光デバイスへの応用が期待されている半導体材料ゲルマニウム(Ge)およびシリコンゲルマニウム(SiGe)をチャネルとしたスピンMOSFETの実証を目指して研究を推進しています。半導体スピントロニクス分野では世界的に極めて異例の絶縁トンネル障壁層を用いない低抵抗・室温スピン注入技術を独自に開発することで、世界最高水準のスピン注入を室温で実現しています。現在は、強磁性ソース・ドレイン電極材料の高性能化だけでなく、半導体チャネル材料の高性能化(スピン拡散長の増大やスピン緩和機構の抑制など)の観点から、スピンMOSFETの性能指標である「磁気抵抗(MR)比」を回路上で読み出し可能なレベルにまで向上させることに取り組んでいます。また、ゲート電圧印加による電流変調と不揮発メモリ効果を同時に実現できるトップゲート型スピンMOSFETの作製にも取り組んでいます。
最近の代表的な論文はこちら
M. Yamada et al., NPG Asia Mater. 12, 47 (2020) (Featured Article).
K. Kudo et al., Appl. Phys. Lett. 118, 162404 (2021).
T. Naito et al., Phys. Rev. Applied 18, 024005 (2022).
半導体デバイスの微細化が進むにつれて、従来の横型デバイス構造の改良だけでは、デバイス性能を向上させることが困難になりつつあります。そこで、浜屋研究室では、縦型デバイス構造への革新を独自に推進しています。これまで、分子線エピタキシー(MBE)を用いた独自の低温薄膜合成技術の開発により、デバイス応用上必須であるSi基板上に、全単結晶「強磁性体/半導体ゲルマニウム/強磁性体」縦型構造を世界に先駆けて実証しました。最近では、高性能強磁性ホイスラー合金を下部電極に用いた縦型構造の作製に成功し、半導体スピンデバイスにおいて世界最高値の室温MR比を達成しています。縦型半導体Geスピンデバイス以外にも、 ホイスラー型半導体を中間層とした全ホイスラー構造の縦型スピンデバイス、垂直磁化材料を強磁性電極に用いた縦型半導体スピンデバイス、強磁性ホイスラー合金/半導体ナノワイヤ構造を用いた縦型スピンFETなど、独自の高集積型縦型スピンデバイスの研究を推進しています。
最近の代表的な論文はこちら
A. Yamada et al., J. Appl. Phys. 129, 013901 (2021).
A. Yamada et al., Appl. Phys. Lett. 119, 192404 (2021).
S. Yamada et al., J. Magn. Magn. Mater. 561, 169644 (2022).
近年、スピントロニクス技術を利用した不揮発メモリデバイスの開発が勢力的に進められています。その代表例である磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は、高速動作、繰り返し書き込み耐性、大容量性を備えた不揮発性メモリとして期待が寄せられており、2023年現在、最新のスマートウォッチなどに搭載されるようになってきています。しかし、スピントロニクスデバイスにおける情報書き込み(強磁性電極の磁化方向の制御)時に電流を用いたスピン注入磁化反転技術が主に用いられており、デバイスの微細化や高速動作化に伴って情報書き込み時の消費電力が大きくなるという課題が残っています。浜屋研究室では、従来の電流を用いた磁化制御技術ではなく、より低消費電力化が期待できる電圧での磁化制御技術の実現に向けて、高性能スピントロニクス材料と強誘電体からなる高性能界面マルチフェロイク材料の開発や、それを組み込んだ電圧制御型スピンデバイスの開発を推進しています。
最近の代表的な論文はこちら
S. Yamada et al., Phys. Rev. Mater. 5, 014412 (2021).
T. Usami et al., Appl. Phys. Lett. 118, 142402 (2021).
S. Fujii et al., NPG Asia Mater. 14, 43 (2022). (Nature Research).
データセンターの消費電力増大の解決に向けてジョセフソン接合を利用した超伝導コンピューティングが注目されています。超伝導ループ内の磁束量子の有無を「1」と「0」に対応付けて演算を行う単一磁束量子(Single flux Quantum : SFQ)回路は、従来のCMOS回路に比べて1桁程度高速かつ3桁程度低消費電力の動作が可能とされており、次世代の集積回路技術として期待されています。 現在、SFQ回路に適用可能なメモリとして、磁性ジョセフソン接合と呼ばれる積層構造を利用した不揮発メモリの開発が進められています。しかし、電流誘起磁場による書き込み方式の使用が検討されており、集積化・省電力動作の観点から問題を抱えています。そこで、浜屋研究室がこれまで蓄積してきた界面マルチフェロイク構造による磁性制御技術をSFQ回路用メモリに適用できないかと考え、研究に取り組んでいます。現在までに、圧電体上への超伝導薄膜の作製に成功しており、今後、磁性ジョセフソン素子への適用を目指しています。